岡本安晴日本女子大学心理学科

受験生の方へのメッセージ

「受験生の方へのメッセージ」という原稿を用意するようにとの指示がありました。作成した原稿をWeb用に修正・加筆したものをここに掲載します。

 

受験生の方へのメッセージ

 心理学は心と行動の科学です。科学の歴史は、物理学などの自然科学に始まり、20世紀の情報科学、そして現代の心と行動の科学としての心理学という流れを見ることができます。この科学の新しい分野である心理学では、物と心の関係、性格などの個人差、人と人との関係、集団行動・社会現象、およびそれらの時間軸上での変化(学習・適応・発達)などが研究されています。物(自然)から情報、そして心と行動へと人が科学的に理解し主体的に関わる範囲が拡張されていくという歴史的事実があり、様々な分野で物や自然そして情報の世界と人との関わりが問題とされるようになっています。心と行動の科学である心理学への探検を求めて、まずは受験勉強を頑張ってください。

 

心理学科に入学すると、こんな勉強ができます!

 心理学科には、心と行動に関するいろいろな領域の勉強ができるようにカリキュラムが用意されていますが、私が担当している授業科目の1つに計量心理学があります。計量心理学は、心と行動の科学の基礎としての心理学的な測定についての学問です。心あるいはその表れである行動には不確定性が伴っていますが、この不確実な現象は確率モデルによって厳密かつ精密に研究することができます。人を対象とする確率モデルは、数学的には解析が難しいものが多いのですが、最近はコンピュータシミュレーションによる解析がPCで容易に行えるようになってきました。心と行動の不確定性に潜む科学理論を、確率モデルとコンピュータシミュレーションによって探求するということも心理学の魅力の1つです。

 

高校の勉強あるいは生活全般で心がけてほしいこと

 興味をもったことを徹底して探求してください。この自分の興味を大切にするという経験が、大学での勉強で活きてきます。

 

読んでおくと良いお薦めの図書(「心理学」と関係ないものでも可・・・3冊以上)

山岸俊男「心でっかちな日本人」日本経済新聞社、2002

  心と行動についての1つの見方が説明されています。

大山正「色彩心理学入門」中公新書、1994

  科学としての心理学は、フェヒナー(1860)の物と心の関係の研究に始まるとする考え方がありますが、本書は色という物理刺激についての心理学的研究を解説したものです。

伊勢田哲治「疑似科学と科学の哲学」、名古屋大学出版会、2003

  科学としての心理学について考えるときの参考になる1冊です。

注意: ただし、科学としての心理学をやる上では、哲学は必要ありません。上に「哲学」の本も上げておいたのは、科学としての心理学とは異質なことが通俗的に「心理学」として取り上げられていることがあるからです。心理学は、我が国においては東京帝国大学文学部哲学科心理学専修として始まったと考えられますが、このことは心理学が哲学であるということを意味しているわけではありません。物理学は自然哲学から発展したと考えたとき、哲学者の考えてきた自然法則が物理学に貢献したといえるかというとそうではありません。哲学者の自然法則は、事実に基づくものというより観念的なものであったため、「動いている船のマストから落とした物体は船の後方に取り残される」という主張にみられるように、自然科学にとっては、あるとしても単なる切っ掛け程度の意味でしかない、むしろ関係のない主張がなされているものがあります。物理学は、このような哲学的考察に煩わされることなく、実験などの事実に基づいた研究を進めてきたために今日の発展があると考えられます。心理学も哲学科に属していたこと、また現在も哲学科あるいはその発展系に所属している場合もありますが、このことと心理学が学問として哲学とどのような関係にあるのかという問題とは区別する必要があります。哲学はあらゆることに関係するという意味において心理学とも関係しているといえますが、物理学研究が哲学を学ばないとできないかというとそうではないという意味において、心理学研究においても哲学にこだわる必要はないといえます。

ニュートンの運動法則に関して、哲学者も「力を加えれば物は動く」という理論を既に提出しているので、運動を物理学的に研究するためには哲学も学んでおく必要があるという主張が無意味であるように、心理学におけるこれこれの理論について既に哲学者はこのようなことを言っているから心理学を研究するものは哲学も学んでおく必要があるという助言はむしろ有害です。物理学の場合で言えば、ニュートンの運動法則が出されたときに、哲学では「力を加えると物体は動く」ということは既にいわれているという批判を行って、物理学者に哲学の勉強をすすめ、物理学は哲学の後追い程度の学問であるという見当違いの批判をするようなものです。哲学の「力を加えれば物は動く」というレベルのことでは、ロケットは飛ばせません。運動法則という数学的に定式化された法則があってロケットを飛ばすことができます。

上記の哲学書は、「心理学が科学であるとはどういうことか」という疑問のある人には参考になる1冊ですということであげておきました。心理学は事実(実験とか観察、調査など)に基づいて研究が進められ、単なる言葉による記述とはレベルの異なった法則の発見を目指すものです。

 

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